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骨董屋の人形

呪い代行呪鬼会

[su_youtube url=”https://youtu.be/J-bEASxtCWU”]

大学の春休みは長い。二ヵ月はある。 私はふらふらと、あまり行っていない東京から少し離れた関東圏へと、電車でアテもなく巡る事にした。ささやかな国内旅行みたいな感覚だった。 色々と有名な観光スポットに向かうよりも、その土地に行って、ふらふらと住宅街を散策するのが好きだった。その土地にはその土地の風情みたいなものがある。

そんなささやかな電車での国内旅行に明け暮れている時、私はある街角で古ぼけた民家のような骨董屋を見つけた。そこに掲げられた一つの怪しい看板にひかれて私は店に入ることにした。 店主は五十代の老人。 店の中にはガラクタにも見える沢山のものが売られている。家具に調理道具、本やCD、よく分からない変わった人形…………。

怪しい看板。 『呪い仕り候』
「おじさん。これ、なんですか?」 私は訊ねる。
「んん。こうして長年骨董品を集めているとときどき訳あり、なものを取り扱うことも多くなってね。人の念がこもった、いわゆる呪われた品とかね。中には実際に呪いに使われたんじゃないかっていう道具もちらほらでてきてね」
「へえ」
「それで呪いに興味がある人たちがうちの店にくるようになったのさ」 「へえ…………」
「だからさあ。その縁でね、呪いに関する勉強会みたいなのもやり始めてね。日本呪術研究呪鬼会っていうんだけどね。呪いを人にかけるっていうことまではじめたのさ。まぁ本業はさっぱりなもんで、今となってはどっちが本業なのかわからんくらいで。」
「あ、はい」
「骨董屋と呪い、ってのが、妙に受けたみたいでねえ。スキマ産業、って言うのかねえ。宣伝もしていないのに結構依頼が来るもんさ」
「そうなんですね」
「どうかな?お嬢ちゃん。呪いは?この人形を見てごらん。かわいいだろう?」 おじいさんは古めかしい日本人形を手にしながら怪しく笑った。
「この人形はもう10人以上殺しているよ」
「呪いたくなったらいつでも連絡してね」 手渡された名刺は黒の用紙に金字で「日本呪術研究呪鬼会」と書かれており、メールアドレスの記載もあった。私は受け取りながら、あまり人を恨んだり、憎んだりしない性格なので、呪いたい相手など存在しないだろうと思った。

それから、数か月後の事だった。 私の大学時代の友達である千保が、知らない男に暴行された。 千保はその時のトラウマが原因で自殺した。 私は、春休みに行った骨董店の事を思い出す。メールを送っていた。 数時間後、私の下にメールが届いた。
‐呪い代行、承りました。‐
そういった趣旨のメールと、後日奇妙な日本人形が届いた。

男たちはみな小さいころからずっと一緒だった。小学校、中学校、高校といつも遊んでいたいたずらが、いつしか大きな犯罪行為へと変貌していっても誰も咎める者はいなかった。

紙野は塗装工をやっていたが、その賃金の大半を風俗通いに使っていた。一年前に付き合っていた女にDVをしまくって逃げられた。通っている風俗店でも酷い客として眼を付けられている。そのうち、地元の風俗店は軒並み紙野を出入り禁止にするかもしれない。

久島は無職だった。 土方の仕事をしていたが、先輩達の指示に従えずに辞めてしまった。誰かの下に就く事は出来ないのだと、久島は愚痴っている。だから、そのうち起業したいと彼はうそぶいていた。
「おい。猿渡さあ。最近、どうよ?」 久島は今のチームのリーダーである猿渡に訊ねる。
「仕事は順調って言いたい処だけどなあぁ。全部、スロットですっちまう。だから、貯金はねえぇ。職場に頭下げて来月分を前借りさせて貰っている」
「なにか、オイシイ話は無いものかねえ」 紙野が口を挟んだ。
「なんなら、ウチの会社に就職するかあぁ?」 猿渡が茶化すように言った。 そんなやり取りをしながら、3名の酒盛りは続いた。

3名はこの日、酒の入った頭で、ある事件を起こす事にした。 標的は女子大学生がいい。 金が欲しい。 キャッシュ・カードやクレジット・カードを持っていると、更にいい。 金が無くなったら自分で汗水たらして、働く、そんな当たり前のことがこの三人にはできないのだ。 標的となる女はすぐに見つけた。 清楚な感じがして、ブランド物のバッグを身に付けていない女。男性経験が少ないタイプ。男をよく知らない。 女を襲うのは簡単だった。 みんな、元々は色々と悪い事をやっていたし、何年か前にホームレスをリンチした事もあった。だから、簡単に…………。相手が死ななければ、それでいい…………。行動を起こしてから一週間くらいして、襲った女が自殺した事を風のうわさで聞いた。 3人達も多少の罪悪感はあるものの、もし今度やる時は、やり過ぎないように慎重にしよう、という話になった。

私は犯人達を許せなかった。 警察はマトモに捜査をしてくれない。 散々、酷い暴行をされて、千保はそのショックで自殺したのだ。 千保の件はニュースにもなっていない。 自殺したから、だろう。もし、そのまま殺されていたら、ニュースになっていたと思う。聞く処によると、犯人達はかなり悪質だったそうだ。 自殺の前日まで、千保は私にLINEを送ってきた。 どんな事をされたのか、私には話してくれた。 私は夜中、ずっと泣いていた。 ふと。 真夜中、何かが動き出す音が聞こえた。 物音だろうか? 音は箪笥の方から聞こえる。 私は箪笥を開ける。 例の日本人形だった。 人形がカタカタと動き続けている。

紙野はその日、仕事が終わって帰宅する事にした。 帰り道、バイクを走らせる。 背後から、何かが追ってきているように錯覚する。 ……参ったなあ。警察の職質か?今、アルコール飲んでないから大丈夫だろ。あ、でも、ヘルメット付けていない事、注意されるかな。 彼はそんな事を考えていた。 気配を感じる。 ぼんやりと。 ライトの明かりに照らされて、薄暗闇の中、何者かが迫ってくる。 紙野は気付いた。 どうやら、女の影のようなものが追ってきている。 首から上は見えない。 服装は…………。 紙野は息を飲んだ。

あの日に、みんなで襲った、あの女子大生と同じ服装をしている……。 幻覚に違いない。 紙野はそう考えて、バイクを走らせていた。 それでも、その女は消えてくれない。 それどころか、バイクを走らせていると、色々な場所に出現する。 電信柱の後ろ。公園のベンチ。コンビニの前。明らかに紙野を追っている。 ……幻覚だろ?消えろよ、消えろ、消えろ。 紙野は叫び声を上げていた。 女が彼の眼の前に立っていた。 このままだとバイクで轢いてしまう。 彼は急ブレーキをかけて、バイクのハンドルを勢いよく回す。 目の前には電柱があった。 紙野は電柱と正面衝突する。 頭に激痛が走り抜け、意識が途絶えていく。

「紙野が死んだ」 久島はその事をみなにLINEで告げた。 事故現場はかなり悲惨だったらしい。 ヘルメットを付けていなかったせいで、紙野は頭を大きく損傷した。中身が出てしまっていたらしい。事故が起こった直後、紙野は一時間くらいは生きていたらしい。 「安全運転しない奴だったからなあ」 久島は呆れた声を出した。

久島はそう仲間達に告げた後、酒屋に行って大量の酒を買う事にした。 ウイスキーの瓶を二つも買って、安アパートの中に入る。 三時間後、瓶は二つ共、空っぽだった。 「酒買ってくるかな」 久島は天井を見ながら、一人呟いた。 仲間の中で、彼だけ無職だ。 貯金が出来ない性格なので、派遣労働でも何でもして食い繋がないといけない。それでも、彼は酷い倦怠感に襲われていた。

最近はアルコールで将来の不安を紛らわせている。 久島はトイレで用を足すと、コンビニに酒を買いに向かった。 ふと、気配を感じる。 久島は背後を振り返る。 ぼうっと。 女の姿があった。 服装は“あの時に3人で襲った女”と同じものだ。 顔は見えない。 アルコールの幻覚だと思ったが、彼は恐怖の余り走っていた。 電柱の影などから、女の姿が見える。 久島は猿渡にLINEを送った。
<あの女がいる。あの女が幽霊となって、俺を襲っている。きっと、紙野も、あの女に殺されたんだっ!>

久島は酩酊した頭で走りながら、LINEを打っていた。 彼は今、何処を走っているのか分からなかった。 ふと、久島は立ち止まる。 どうやら、そこは工事現場みたいだった。 彼は混乱した眼で、現実か幻覚か分からない世界を彷徨っていた。 工事現場の中には、あの女がいた。 顔は暗くて見えない。 久島はこの場所を立ち去ろうとする。 何かが千切れる音がした。 久島は大量の鉄骨の下敷きになった。 …………、鉄骨の下敷きになった後も、彼はしばらく息をしていた。 呼吸が乱れ、意識を失っていく。 酷い激痛ばかりが身体を走っているのが分かった。 だんだん、身体の痛みが和らいでいく。 そう言えば、人間はある一定量以上の負傷を身体に受けると、痛みを伴う感覚を脳が遮断してしまうらしい。久島はもはや、痛みを感じなかった。 あの服装の女が、鉄骨の下敷きになった、久島のもとへと近寄ってくる。 薄暗い中、顔がゆっくりと見えてくる。 久島は絶叫を上げようとしたが、声が出せなかった。

「鉄骨の下敷きになって死ぬ前、久島からのLINEがあったな。あの時の女が襲ってくる、って、幽霊でも見たのか?幽霊なんているのか?幽霊が人を殺すってあるのか?」
猿渡は伊達メガネを掛けて、自宅のマンションの中に入った。 猿渡はオレオレ詐欺の片棒を担いでいた。 上司が筋モノで、とんずらするタイミングを逃して、今でもズルズルとやっている。 そして、猿渡は上司から、三百万の借金を背負わされている。 仲間には羽振りが良いように見せているが、猿渡の人生はボロボロだった。彼は裏社会のカモにされて、ついには抜け出せずにいる。

あの夜の出来事は、猿渡にとって大きな鬱憤晴らしになった。 自分が初めて、誰かを踏み躙れたような気分になった。
「俺は……、俺はただでは殺されねぇえぞ」 猿渡は台所から刃渡り15㎝以上の包丁を取り出して布で包む。 幽霊だろうが何だろうが、刺し殺すつもりでいた。 そして、彼は冷蔵庫の裏側に袋に包んで隠しているものがある。

彼は冷蔵庫の裏側に手を伸ばす。 色付きの袋にそれを隠していた。 彼はそれを握り締める。 拳銃だった。 上司から貰った。 弾丸は、天井裏に隠してある。
「ふん。銃もあるし、包丁もある。幽霊だろうが、殺してやる」 彼は銃と包丁をバッグの中にしまう。 状況的には、紙野と久島は、外で幽霊に出会っているみたいだ。 なら、適当に外を徘徊していれば、幽霊とやらに出会えるだろう。 彼はマンションを出る。

月が綺麗だった。 彼はマンションのエレベーターを降りていく。 二階で止まった。 開いた扉の向こう側には、女がいた。顔はよく見えない。 ただ、服装を見ると、あの女である事が分かった。 猿渡はまず刃物を手にして、その女へと襲い掛かった。 女の姿はすうぅ、と消えていく。
「なんだよっ!俺は怖くねえぇぞ。おい、逃げたのか?」 猿渡は辺りを見回す。 すると、一階へと降りる階段の辺りに女がいた。 顔はよく見えない。 猿渡は女を追う。 女は逃げるように消えていく。 マンションの駐車場の辺りに女の姿があった。 猿渡は周辺を見渡す。 誰もいない…………。

彼は拳銃を袋からズボンのポケットに入れた。 一度、撃ってみたい。 幽霊なら、別に大丈夫だろう。 彼は駐車場に到着する。 女が立っている。 駐車場の中の明かりが、女の顔を鮮明に映し出していた。 猿渡は息を飲む。 女の顔は、真っ黒な眼と口の、蝋で出来たような人形の顔をしていた…………。 猿渡は拳銃の引き金を何度も、引く。 女の額、胸元の辺りに三発程、命中した。 女は地面に崩れ落ちる。
「やったっ!やってやったぞおっ!」 猿渡は歓喜の声を上げた。 猿渡は、倒れている女の顔を覗き込む。 会社の社長だった。 彼は和彫りの刺青を、肩の辺りから覗かせて、銃で撃たれて死んでいた。 駐車場内では、猿渡の狂ったような笑い声が響き渡り続けていた。

<呪い代行。終わりました>
私のもとに、そんなメールが返ってきた。 私は千保の遺影の前にいた。 静かに、彼女に手を合わせてお祈りを捧げる。 千保の両親達は、私が来た事を酷く喜んでいた。 TVのニュースが流れていた。 昨夜、暴力団関係者の男が同じ暴力団関係者の射殺した事件が起こった。容疑者の男は、幽霊を返り討ちにしようとした、となどと言っており、警察は精神に異常がないかも調べている、とのことだった。 私は千保の両親の家を出た。

そう言えば、あの骨董屋のおじさんにまた会って話をしてみたい。 好々爺といった風で、話しやすそうだった。 会って、直接、お礼も言いにいきたい。
「あの、おじさん。またいるかな?」 メールを送ってみようとした。 すると、あの呪い代行を依頼したメールの履歴がすべてなくなっていた。

数日後、私はあの骨董屋があった場所の辺りを何時間も掛けて調べてみる。 近所の人達に訊ねてみたが、そもそも、この辺りに骨董屋なんてものは初めから無かったらしい。 ただ一つ分かる事は、私が骨董屋のおじさんから預かった日本人形が何処かへ消えてしまった事と、千保の自殺に追い込んだ者達は、全員、しかるべき報いを受けたんだという事は理解していた。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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