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こじらせた男の末路

呪い代行呪鬼会

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私は地方の家電量販店で働いています。 自分でも嫌というほどにわかっているのですが、私はいわゆる「負け組」です。 身長も低く、完全な肥満体型。 浅黒い肌には、吹き出物。 顔は言うまでもなく……という感じです。 自分ではよくわからないのですが、周りの人の反応を見る限り体臭もきついのだと思います。 性格も暗く、卑屈。 人一倍女性に興味はあるのに、リアルではまったく女性と縁がありませんでした。 そりゃあそうですよ。 もし自分が女の人だったとしても、自分のような男は選びません。 それでもどうにか女の人と触れ合いたくて、出会い系サイトを使っていました。

メールや電話でのやり取りまでは問題ないのですが、直接会うとなると相手の女性も逃げるように去っていきました。 ひとりだけ一緒に暮らすほどの関係になった人もいたのですが、結局、借金だけが残る形に。 要は金づるだったわけです。 今考えると、金づるでもよくこんな気持ち悪い男と一緒に暮らせたなぁと思いますね。 ここまで来たら諦めればいいものを、当時の私は諦めきれずどうにかして女の人との接触を持とうとしていました。

お金があれば風俗やキャバなどでもよかったのかもしれませんが、他人の借金まで背負っていたのでそんな余裕はありません。 それでなくとも薄給ですからね。 そこでたどり着いたのが、SNSでした。 SNSだと匿名でOKですし、自分の欲望のままのアカウントを作成しました。 そんなアカウントでもそれなりの交流ができるようになっていって、そのSNS上ではリアルよりも強気になれるようになっていました。 普段は「俺」なんて言わないのに、あえて「俺」と言ってみたり荒くれ者のような言葉遣いをしてみたり……今考えると、本当に恥ずかしいです。 その中で、ひとりの女性と仲良くなりました。

相手の女性もいわゆる裏アカのようなもので、いろいろ闇を抱えてそうな感じがありました。 フォロワーもかなりの数で、その界隈では人気者でした。 ちょっとしたアイドルのような感じでしょうか。 今思えば画像なんていくらでも加工できるわけですが、好みだったのでダメ元でメッセージを送ってみました。 すると意外にも、普通に返事が来たのです。 それでテンションが上がってしまって、彼女に対してどんどんのめり込んでいきました。

もちろん、最初は普通のやり取りをしていました。 どこに住んでいるのか、学生時代は何に興味があったのか、これまでの恋愛はどうだったのか……彼女がいわゆるネカマの可能性もあったのに、確実に彼女は存在するものとして考えるようになっていましたし、知れば知るほど彼女のことを身近に感じられるようになっていきました。 彼女は前に付き合っていた人からストーカー行為を受けていたようで、警察にも相談していたそうです。 そのせいで男性に対して警戒していると聞いて、勝手に「俺が守らないと!」と彼女のナイトにでもなったような気持ちになりました。

彼女は他の男性フォロワーからもたくさんメッセージを受け取っていたので、「その中でも俺は他の男とは違う」というのを見せつけたくて、とにかく彼女を気遣うようなメッセージを送り続けました。 そういったやり取りの中で、彼女が「あなたみたいな人が彼氏だったらよかったのに」と言ってくれるようになりました。 今思うと、この言葉で私は完全に落ちたのでしょう。 風俗やキャバの殺し文句に引っかかる男というのはこういう感じなのでしょうね。 彼女は彼女で本当に何気なく言った言葉だったのだと思いますが、私はその言葉をきっかけに彼女の恋人であるかのように振る舞うようになっていきました。

他のフォロワーから何か言われたときには「俺がいるから」と慰め、彼女に自分だけの呼び名をつけるなんてこともしていました。 正直なところ、年齢の割には幼稚で稚拙なことをしているという自覚はありました。 彼女が何となく引き始めているのも感じていました。 それでも、自分が止められなかったのです。 彼女は彼女で収入のためにそのSNSをやっている部分もあったので、熱心な信者のような私をそう簡単に切ることができなかったのでしょう。

私は漠然と自分がおかしくなっていることを感じながらも、彼女への思いを止めることができずに、「会おう」と提案しました。 彼女もオフ会の感覚だったのか最初はOKしてくれていたのですが、彼女のほうで予定が合わずに実現しませんでした。 彼女が「しばらくは無理そう」と言っているのに、私は彼女の都合も考えずに「明後日は?来週は?」と強引に話を進めようとしていました。 バスのチケットも買って、彼女が断れないような状況に追い込んでいったのです。 彼女はさらに引いていき、謝罪の言葉とともに「もう会えません」と伝えてきました。

本当にみっともないのですが、私は彼女に会うためにどれだけのお金をかけたのかを彼女に訴えました。 彼女はただただ謝るしかありませんでした。 私は彼女に一通りの謝罪をさせてから、「それでも嫌いにならないよ」と伝えました。 無意識のうちに、彼女を洗脳しようとしていたのだと思います。 我ながら本当に恐ろしいです。 その後、彼女が動画の配信をおこなう機会があり、私もそれを視聴しました。 有料配信で今で言うところのスパチャで、私は何百円かのお金を使いました。 ただ、彼女の配信を見ているのは私だけではなく、他のフォロワーたちとも彼女は楽しそうに話をしています。

お金を払っているのに、私だけを見ていないということが許せなくなりました。 そういうシステムなのですから、彼女には非がないのにも関わらず私はまた彼女に「お金も払ったのに他の男と話しているほうが楽しいのか」と感情をぶつけるようになりました。 彼女もこの頃にはうんざりしていたと思います。 30代の男がたった数百円でワーワー喚くのですから、誰だってうんざりするでしょう。 彼女はお金を返すと言いましたが、私はそれを受け取りませんでした。

この頃になると、最初の頃のようにやり取りを楽しむなんてことは一切ありませんでした。 私が彼女の粗を探して、それをメッセージで指摘し、彼女に謝罪をさせるということの繰り返しです。 本当に頭がおかしいですよね。 でも当時は、そうしなければという使命感のようなものすら抱いていました。 彼女が投稿をすれば「これは俺のことなのか?」と問いかけ、彼女の投稿を引用して「この女はおかしい」と自分のアカウントに投稿しました。

彼女が見ているわけもないのに、わざと他の女性フォロワーと仲良くして彼女のことをこき下ろすようなこともしていました。 それでも彼女が私のアカウントをブロックしなかったのは、ブロックしたら逆上して何をしでかすかわからないという恐怖があったのだと思います。 ただ、そのうち私が彼女のブログや動画に悪い評価を付け、悪意あるコメントを残すようになり、耐えかねた彼女はとうとう私のアカウントをブロックしました。 もちろん、私はすぐに別のアカウントを取得し、彼女をフォローしました。 新しいアカウントで彼女をフォローした私は、さも彼女の理解者であるかのように彼女にすり寄っていきました。 彼女にすり寄り、「変な男も多いでしょ?愚痴ならいくらでも聞いてあげるよ」と私は別人になりすまして、私の悪口を彼女自身から引き出そうとしていました。

彼女が私の悪口をちょっとでも言えば、それが彼女を攻撃する理由になると思っていたのです。 ただ、私がなりすましていることは彼女に最初から見抜かれており、彼女は当たり障りのない返事しかしませんでした。 彼女でなくとも、誰が見てもバレバレのなりすましだったのですが、それでも私は別の誰かとして彼女に接触を続けたのです。 彼女から思うような情報を引き出すことができず、私はまた彼女の動画やブログへの攻撃を始めました。

どうにかして彼女から反応を引き出したいと、私は他の女性と彼女と比べて彼女をこき下ろしたり、彼女のコンプレックスをあえて指摘したりといったことを繰り返していきました。 そのために動画を作ったり、何度も投稿をおこなったりもしました。 ただ、ここで予想外のことが起こりました。 私はてっきり彼女が私に怒りをぶつけてくると思ったのですが、彼女がノイローゼのような状態になってしまったのです。

彼女のSNSには「死にたい」「私が死ねば満足なんでしょ?」といった自殺を思わせる投稿が増えていきました。 フォロワーはすぐに犯人捜しをはじめ、私のことがすぐに特定されました。 その後、私はアカウントも削除し、彼女に関する動画や投稿もすべて消しました。 このとき、彼女への申し訳なさではなく、「彼女が死んだら自分が何かの罪で捕まったり訴えられたりするのではないか」ということばかり考えていました。 我ながら人として終わっています。 最初はビクビクしていたのですが、何事もなく過ぎていく毎日の中で彼女のことも忘れつつありました。 ただ、1か月くらい経った頃でしょうか。

突然、体の調子が悪くなりました。 いろいろなところが痛むのです。 病院へ行ったのですが、原因は結局わかりませんでした。 整骨院や整体院、鍼治療などにも通い、包帯でぐるぐる巻きにもなりましたが、体の痛みはなくなりませんでした。 そのうち、働いている家電量販店で女性のお客様から理不尽な絡まれ方をするようになったり、他の従業員のミスをなすりつけられるようになったり、「今日は嫌な日だったな」と思うことが増えていきました。

家ではゆっくりしたいのに、家は家で家電製品が続けて壊れるようになりました。 買い替えをしなければならず、出費もかさむ一方です。 悪夢にもうなされるようになり、家の中に何かの気配も感じるようになっていきました。 自分の体の症状や最近身の回りで起こっていることを自分なりにネットで検索してみると、霊に憑りつかれているのか、呪いをかけられているのかという結論に至りました。 「呪い」という言葉を見て、彼女のことを思い出しました。

慌てて彼女のSNSをチェックしようと思ったものの、すでにアカウントは削除されていました。 「もしかしてすでに自殺して、私に憑りついているのか?」と思い、彼女のフォロワーからたどっていき、彼女の新しいアカウントを見つけ出すことができました。 当時教えてもらっていたところからは遠く離れたところに引っ越しをしたようでした。 ただ、彼女はそのアカウントで私への恨みつらみを書き連ねていました。 直筆の文字ではなく、SNS上での文字なのに私への憎しみが直に伝わってくるようで、私は震えました。

彼女の投稿を遡っていくと、彼女が呪鬼会に呪い代行を依頼していることがわかりました。 それと同時に、まだ彼女と楽しみながらやり取りができていた頃に彼女に信頼してほしくて自分自身の個人情報をベラベラと話していたことを思い出しました。 つまり、彼女は呪い代行という形ではありますが、確実に、正確に私だけを呪っているのです。 彼女の投稿の日時から考えても、私にこれまでいろいろと起こっていたことはすべて呪いだったと考えるのが自然です。 「すぐに死ぬのは許さない。できるだけ長く苦しみながら時間をかけて死んでいってもらいたい」という彼女の投稿を見て、私は本当に何てことをしてしまったんだと心底後悔しました。

直接謝罪したい気持ちがないわけではありません。 ただ、今謝罪するために接触したら彼女の感情を逆なでしてしまうのではないかという恐怖があるのです。 彼女は私がどこの誰なのかわかっていて、自分の手で復讐をするという選択肢もあったのだと思います。 それでもあえて呪い代行を利用したのは、私に直接手を下す価値がないということなのでしょう。 SNSで知り合った女性を好きになって、ネットストーカーをした結果、呪われてしまいました……なんて誰にも言えません。

このような状況になって、初めて彼女が「死にたい」と投稿したときの気持ちがわかったような気がします。 逆に言えば、ここまでのことをされないと人の気持ちもわからないのかと思うと本当に自分自身が情けないです。 この罪を背負って、死ぬその瞬間まで悔いていくしかありません。 私のようなケースはレアかもしれませんが、皆さんもお気を付けください。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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