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合格祈願

呪い代行呪鬼会

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私のママは昔から厳しい人でした。 食事のマナーや生活習慣は2歳頃からトレーニングされました。食事中に遊び始めたら手を叩かれ、絵本を破れば一時間は大声で怒られました。 幼稚園に入る前から水泳や英語といった習い事に通い、公園で遊ぶ時間より勉強をしている時間の方が長かったです。

当然ながら、幼稚園も英語教育や算数に特化した学習主体の幼稚園に通いました。この幼稚園は家から遠く、通うのが大変でしたが、家の近所にある幼稚園は外遊びを思い切りやって、遊びから学ぼうというのが主体の幼稚園でしたので、ママが理想とするものとは合わなかったんです。 幼稚園から帰っても、外で遊ぶ時間などありません。すぐに習い事に行っていましたから。

ママは意識の高い教育ママと、地元で有名になっていきました。 何故ママがこのように私を教育するのには、理由がありました。
「いい?シホ。これからは女の子もちゃんと勉強して、良い会社に入って働かなきゃ駄目なのよ。これからの時代、可愛いだけとか料理が上手とか……そんな特技より、お勉強が出来て良い会社に入って働ける人じゃないと生き残っていけないの。そうされば、優秀な人と結婚出来るし、幸せになれるのよ。だから、今からしっかりお勉強して、良い学校に行きましょうね」

ママはいつも口癖のように私に言い聞かせていました。 良い学校に行き、良い会社に入り、優秀な人と結婚する……それこそがこれからの時代には必要なことなのだと。 子供だった私には詳しいことまでは理解出来ませんでしたが、「私はママの言う通りにしないといけないんだ」ということだけは、十分理解できました。

しかし、私は失敗しました。 私立小学校の受験に落ちたのです。ママが絶対に入れたいと熱望していた、有名私立小学校……幼稚園に通いながらあんなに勉強したのに、私は落ちてしまいました。 ママは怒り狂って、私をきつく叱りつけました。
「なんで落ちるのよ!どうして受からなかったのよ!ねえ、なんで!?どうしてよ!?」
「あんたはあそこに行かなきゃ駄目だったのよ!こんなに早くに躓いてどうすんのよ!」
「このままじゃ落ちこぼれになっちゃう!そこら辺の子供と同じなんて駄目なのよ!」
激昂したり泣き叫んだりするママに、私は床に頭を擦り付けて謝ることしか出来ませんでした。まだ子供だったのに、怖くて泣くことなど出来ず、ただママの気持ちをしずめなければと怯えて震えていました。 え?父親は何をしていたのかって?パパは私やママに興味がありませんでしたから……

仕事も忙しく、私のことは全部ママ任せだったんです。 パパを頼れないから、私にはママしかいない。ママもパパを頼れないから、私にどんどん依存する。私に自分の理想や夢を重ねていたのでしょう。 母と娘……二人で一つ。母と息子には無い、娘だからこそある共依存の関係は、この小学校受験の失敗からより強くなりました。 受験に失敗した私は、地元の市立小学校に通いました。勉強に力を入れてるとか、クラブ活動が有名なんてことはない、どこにでもある普通の小学校です。 受験の失敗から、教育ママっぷりに拍車のかかった私のママは、これまで以上に習い事に通わせました。 英語教室、学習塾、スポーツ、ダンス……土日は家庭教師が家に来て勉強を教えました。 普通小学生って、放課後は友達と遊ぶものでしょう?私、駄目だったんです。クラスの友達と遊ぶのをママに禁止されてましたから。

でも、遊んでいる子たちを見ていると楽しそうで羨ましかったですね。 放課後になると、みんな集まって「今日はあっちの公園で遊ぼう」とか「ゲームで協力プレイしよう」とか「あのアニメに出てきたキャラ可愛いよね」とか……楽しそうに話してるんですよ。 うちはゲームもアニメも全面禁止。「夢は東大!京都大!ハーバード!」でしたからね。アニメが見たい、友達と遊びたいと思う子供にとって当たり前の感情すら許されませんでした。

でも一度だけ、友達と遊べるチャンスがあったんです。3年生の時に同じクラスになったカスミちゃんという子が、私を誘ってくれたんです。
「ねえ、シホちゃん。みんなで公園で鬼ごっこするんだけど、一緒にやらない?シホちゃんもたまにはみんなと遊ぼうよ!」
いつも一人でいる私を気にしてくれたようでした。その日は英語教室がある日でしたが、私は習い事よりカスミちゃんたちと遊びたくて、咄嗟に「うん、一緒に遊びたい」と言ってしまいました。それは私の本心でした。 カスミちゃんは嬉しそうに笑って、ランドセルを置いたら公園に集合だよ!と言いました。 帰り道、私の心は軽やかでした。友達と遊べる!鬼ごっこができる!テストで100点を取るより何万倍も嬉しくて、家に着いてランドセルを部屋に置き、ママに黙ってこっそり家を出ようとしました。

しかし…… 「シホちゃん?どこに行くの?」 玄関で靴を履こうとしたところを、見つかってしまったのです。私はガタガタと震えながら答えました。
「カスミちゃんと……こ、公園で……鬼ごっこ、するの……」
「………はあぁ?鬼ごっこ?鬼ごっこですって?今日は英語教室の日でしょ!まさかサボるつもりだったの!?」 ママはヒステリックに叫び、私の髪を掴んで家の中に引きずり込みました。 痛い!やめて!とどんなに叫んでも、やめてなどくれません。 結局その日は英語教室に連れて行かれ、カスミちゃんと遊ぶことは出来ませんでした……それだけでなく、ママは夜になるとカスミちゃんの家まで押し掛けて「うちのシホちゃんはあんたのとこの子と違って勉強が忙しいの!鬼ごっこなんて遊びに誘うのは金輪際やめてちょうだい!」とカスミちゃんのお母さんに捲し立てました。

私は、二度とカスミちゃんに話しかけられることは無く、勉強と習い事ばかりの小学校生活を送ることになったのです。 ママの私への執着は、狂気にも似ていました。 成長すればするほど、私に夢を託して仕事に打ち込むママの姿は重荷になっていったのです。 遊びや興味を犠牲にして勉学に励んだおかげで、中学も高校も県内で一番の有名校に進学することが出来ました。 合格できれば終わりではありません。優秀な子供たちが集う学校の中でトップにならないと、有名大学への切符は取れないのです。 10代の多感な青春時代を、私は勉強に捧げました。 吹奏楽部に入りたい…… バスケ部も面白そう…… 友達と学校帰りに買い食いをしたり、プリクラを撮ったり…… 好きな男の子と放課後デートしてみたい…… そんなことを夢見ながら、ママに言われるままに英単語を覚え、数学の練習問題を解き、小論文を書いていました。

中学でも高校でも、私は首席になりました。学年一位か二位は当たり前。一番順位が下がった時で四位でした。 このような状態だと、自然とママの期待は高まります。
「さすがシホちゃんよ。シホちゃんなら絶対に、確実に東大に行けるわ。行くなら絶対に現役ね。浪人なんて恥ずかしいことしちゃ駄目よ?そんなことしたら、良い会社に入れなくなるわ。ただでさえ小学校受験で失敗してるんだから、ここで取り戻すのよ」 行くのは東大。絶対に現役合格……。日本一の頭脳が集まる場所に行くなんて、私は出来るわけがないと思っていました。 成績だけなら可能かもしれません。でも当時の私は、ママからのプレッシャーが重すぎて、精神的に不安定になっていました。 暴飲暴食を繰り返し、抜け毛は多くなり、何もしてなくても時折ボロボロと涙が溢れ、夢の中でも勉強をしている……およそ普通とは言えない精神状態です。

でも、受からなきゃ……絶対に合格しなきゃ……。 合格しなかったら、何を言われるか……何をされるか……。 ショックのあまり、ママが自殺しちゃうかもしれない……。 そんな考えにとり憑かれ、受験生になってから狂ったように勉強しました。 しかし、どんなに勉強しても不安は拭えません……それどころか、合格しなきゃ合格しなきゃという強迫観念に囚われ、いくら机に向かっても学んだことが頭に入って来ないようになりました。 このままじゃ絶対に落ちる……なんとかしなきゃ……。

ついに私は、神頼みをし……それだけでなく呪術を頼るようになりました。 しかし、呪術たいうものは素人がやっても意味はありません。その道のプロがやって初めて意味を持つものなのです。私は、その道のプロにお願いをしました。 呪術代行業者、「呪鬼会」に……。

呪術についてインターネットで調べていた時に、偶然見つけたところでした。 高校生にとって安くはない料金を支払い、合格祈願を依頼しました。
「絶対に、東大に合格出来ますように……」
大学受験という実力勝負に、呪術の力を頼るのは現実的ではありません。それは嫌というほど分かっていました。 それでも私はすがりたかった。いえ、すがらなければならなかったのです。 依頼をしてから半年後、私は無事に合格することが出来ました。 これが長年の努力の結果によるもののか、呪術の効果なのかは分かりません。ただ分かるのは、合格発表当日に私が気絶しそうになるほど大学合格が嬉しかったことと、ママが涙を流して大喜びしてくれたことです。

目標を達成した……私は頑張った。友達が欲しいとか、学生らしく当たり前のように遊びたいだとか、恋をしたいとか……そんなことを犠牲にして、私はこの日のためにすべてを捧げて来た。これで勉強漬けの日々に別れを告げられる、ママという重すぎる荷物を下ろすことが出来る。 そう、思っていました。 しかし、ママは合格発表の場で私を抱き締めながらこう言ったのです。
「すごいわ、シホちゃん。あなたは私の自慢の娘よ。次は一流企業か。国のトップ機関に入れるように頑張りましょうね!シホちゃん、ママの夢を叶えてちょうだいね?ママの幸せは、娘のあなたにかかっているのよ」
それを聞いた瞬間、私はママから逃れられないのだと思いました。 また私は、呪鬼会に依頼しなければなりません。
「一流企業に就職出来ますように」と。 もしくは……「今すぐママを消してください」と。 教育ママは、今も私と二人で一つになっています。 ママの娘への依存は、まだまだ続きそうです。 生きている限り、ずっと……ずうっと……。

※この作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係がありません。

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