現世の常世、呪いの世界

呪縛の葬列

呪い代行親子関係

日本呪術呪鬼会 呪縛の葬列

私は天海真子(あまみまこ)。中堅食品メーカーに勤めている。 ここ数年、会社の業績が悪化し、起死回生の策として社運を賭けた新商品を開発した。 この商品の販売方法についての企画に、社内プロジェクトのAチームとBチームが二つ立ち上がり、私はBチームのリーダーとなっていた。チームで競い、より良い案が採用される。会社の命運を握る大事なプロジェクトだ。

同時に、チームメンバーにとっては社内での生き残りを賭けた重要な岐路に立っていたのだ。勝って業績を伸ばせば昇進が約束され、負ければ降格の危機に陥る。 リーダーである私は悩んでいた。なにしろ私の判断ひとつでチームメンバーの人生を左右してしまうのだ。不思議と良いアイデアは浮かんでは来るが、それが正解かはわからない。

プロジェクトの発表を間近に控え、私は焦った。 悩み抜いた末、ここは占いに頼ってみようかと思い立った。いまの方向でいいのか、プロジェクトの結果はどうなるのか、それさえわかれば対処ができそうな気がした。 私はさっそくパソコンを開いてネットで占い師を検索した。だが、どれを見てもなぜかピンとこなかった。なぜかはわからないが、いまの自分の気持ちとフィットする占い師が見つからないのだ。 あきらめかけてパソコンを閉じようとしたときに、あることに気がついた。さっきから画面右上に小さな黒い点が点滅している。誘われるかのようにその点滅をクリックした。すると占いサイトが出現した。
「あなたをズバリ占います。まずはお電話を。日本呪術研究呪鬼会。」とだけ表示されていた。なぜかこの占いだとピンときた。 私はさっそく表示されていた番号に電話を入れてみた。が、すぐ留守電に切り替わってしまう。
「折り返しお電話させていただきます。」 それだけだった。なんだ、これ。不在か。やる気のない占い師か。 この占いサイトはどうなんだろうと疑いながら待つこと13分。電話がかかってきた。
「もしもし?」
「不在してましてすみません。観させていただきます。」
「ありがとうございます。」
「では、なになに線のなになに駅で降りて、改札を出て右に進むと不動産屋さんがありますからその前でお待ちください。」
「あ、はい…。」
それから一時間後、私は指定された不動産屋の前にいた。約束した時間が迫っても、それらしき影はない。待ち人来たらず。と思ったところで、電話が鳴った。
「お待たせしました。不動産屋さんの右脇にドアがありますから、そこから二階に上がって来てください。」
え?右脇にドア?そんなのあったっけ? そう思いながら不動産屋を振り向くと、あった!さっきは気がつかなかったが、幅50センチほどの細長のドアがあるのを見つけた。そして狭い階段を上がっていくと、少女のような女の子が待っていた。
「いらっしゃいませ。私、日本呪術研究呪鬼会所属、魔天楼です。さっそく観ますね。えと、私の顔になにかついてます?」
「…いや、想像していた占い師さんより、若い方だと思って。」
「あは。こう見えても私はあなたより年上ですよ。」
「ええ?」
「こちらの世界では若く見えるかも。」
「こちらの世界?」
「ううん、こっちの話。まあ、いいわ。じゃあ、そこに座って。」
「あ、はい…。」
私が女の子の前にあるイスに座った。
「あの…観てもらいたいことをまだお話ししていないのですが…。」
「ああ。わかりますから、大丈夫。」
私は驚いた。この女の子は人の心が読めるのか…。 女の子は私に手をかざししばらく考えていた。
「あの…。」
「ちょっと、待って。」 また考えこむ。やがて女の子は顔を上げた。
「結果はあまり芳しくないわ。このままだと相手のチームに負けるわね。」
「…そうですか。」

私はうなだれた。チームのみんなに申し訳ない。その時、女の子が、
「今のままではね。でも手はあるのよ。」
「本当ですか!?」
「その前に、あなたの周りにYのイニシャルがつく人、誰かいます?」
「えーと、相手のチームに吉村さん、こちらのチームに結城さん。この二人ですね、たぶん。」
「そう…。わかったわ。じゃあ、これから言うことをよく聞いてくださいね。」 「はい。」

それから女の子は私にいくつかの助言をくれた。
・Yのつく人には要注意。心を許してはならない。
・ここを出て駅に向かう途中に公園がある。そこのベンチであなたはあるものを拾う。あなたなら、そこから起死回生のアイデアが浮かぶはず。その後の行動がちょっと面倒だけど。
・そのアイデアは発表寸前まで誰にも漏らさないこと。たとえ同じチームのメンバーであっても。
・ここでの話は決して誰にも口外しないこと。
・これらのひとつでも守られないことがあれば、術は効力を失う。
簡単に言うと、こんな話だった。今後、名前で呼ぶこともあるだろうからと、自分の名前「魔天楼」を覚えておいてと最後に言われた。

魔天楼さんの言われるままに公園に向かいベンチに座る。ここで何があるというのだろうか…。 その時、一陣の風が舞い、私の膝に何かの包み紙が落ちてきた。これは…。 二週間後、プロジェクトの発表があった。相手チームの案はなぜか我々が考えていたものとそっくりだった。まさか、スパイされた?ではあのY、魔天楼さんが言った要注意人物の結城君が相手チームに情報を流していたのか…。

だが、最終的に私たちのプランが採用された。決め手は仲間にも伝えていなかったアイデア。 あの時、あのベンチで…。 私の膝に舞い降りた包み紙。それは老舗のライバル食品会社の商品のものだった。そこで、私はあるアイデアを思いついた。そして、その足でライバル会社の社長を訪問し、直談判をした。意外にも私の提案はすんなり受け入れられたことに私もいささかビックリしてしまったほどだ。

そのアイデアとは、ライバル商品とうちの新商品を食べ比べセットにして販売するというものだった。そしてyoutubeで食べ比べの様子を流す。美味しい方に投票してもらう。この企画が社内でウケた。 結果、この企画が老舗の名物商品と新参者の商品の販売を伸ばした。美味しさ投票では老舗のライバル商品の勝利に終わったが、話題性を提供するには充分だった。

こうして私たちは評価を受け、多くのメンバーが社内で出世した。ただ、情報を流していた結城君だけは、その行為がバレて会社を追われたが。もう彼の消息を知る者はいない。 私は礼をいうために、あの占い師、魔天楼さんを訪ねた。が、その館は見つからなかった。確か不動産屋の横に入口ドアがあったはずなのに、その形跡がまったくない。不思議だ。私は諦めて帰るしかなかった。電話を入れてもつながらない。こうしていつしか占い師の存在も薄れていった。

あれから三年。すべては順調に推移しているように思えた。が、違った。ここ最近異様な事態が生じているのだ。 同じプロジェクトメンバーに次々と奇怪なことが起こっている。ある者は失踪し、行方知れず。またある者はビルから飛び降り、ある者は事故に遭って命を奪われた。いったいこれは…。私にはまだ何も起きてはいないが、そのうち自分の身にもなにか起きるのではないか。 恐怖が私を包み始めたその時、携帯が鳴った。出てみると、あの占い師からだった。
「…魔天楼さん?」
「ええ。」
「ご無沙汰しています。三年前はありがとうございました。おかげさまで。」
「いいの、そんなことは。それより真子さん、あなた、危ないわよ。」
「え?どういうことですか?」
「あなた、呪われてる。」
「えええ?」
「だから、電話したの。」
「どうして、それを?」
「私にはわかるんですよ。周囲の人が居なくなったり亡くなったりしているんでしょ?今度はあなたの番。とにかくすぐに来て!」
「どこへ?」
「もちろん、私の館。」
「でも、前にお礼に伺ったときは、入口がわからなくなっていて…。」
「見えなかっただけですよ。今度は見えますから。」

なんとも変な話だが、私はとにかく占い師のところに向かった。 不動産屋の前に着くと、前には見つからなかったドアが今度は確かにあった占い師は待っていてくれた。 魔天楼さんが私に手をかざしてしばらく考え込んだ。そのあと、こう言った。
「真子さんは、やっぱり呪われてますね。怨念が半端ないですもん。」
「本当ですか!?」
「周りの異変もそのためですから。」
「どうしよう…。」
「呪い元がはっきり見えないのですが、これはおそらくきっと呪い代行を使っているせいです。何か思い当たることはないですか?前に言ったYの名前がつく人の動向とか。」
「あ、うちのチームだった結城さんは会社を辞めました。あの人、私たちの企画案を相手チームにこっそり流していたんです。」
「やっぱり…。あとは?」
「あとは相手チームの吉村さんですが、今も主任のままで会社にいます。」
「ふーん。なるほど。」

それだけ聞くと魔天楼さんはなにか呪文のようなものをつぶやいた。
「わかったわ、呪い元。」
「やっぱり、呪い元は結城さんですか?」
「いや、呪い元は吉村って人です。」
「え?結城さんじゃない?」
「結城さんって人、もう消えてる。この世にいない。」

なんと…プロジェクト競争で勝った時、負けた側なのに笑顔で「おめでとう。」と言ってくれた吉村さんが呪い元だったとは…。
「うーん、でも…さすがに…。ちょと待ってくださいね。」
魔天楼さんは再び呪文をつぶやき出した。かなり時間をかけた呪文だった。何かため息をついている。長い沈黙の後、占い師はようやく口を開いた。
「で、ですね、呪い元までわかれば、呪詛返しといって、呪いをそっくりそのまま相手にお返しするという方法もあるんですけど…。」
「呪詛返し?」
「呪詛返しをすれば、呪い元に最初の呪いの二倍の威力で戻っていくんですよ。」 「すごいですね…。」
「この呪詛返しは、普通は呪いと呪い元が発覚した時点で自動的に呪詛返しが行われるのです。私たちのようなプロがかけた呪いなら呪い返しも呪詛返しも起こるはずはないのだけど、どうやらこの人、三流の呪い代行に依頼したみたいです。」 「じゃあ、もう呪詛返しができていると。」
「ううん。そうはいっても、呪いは呪い。質の悪いことに三流の呪術師がかけた呪いはかけた本人も制御できないようなものになってしまって、かけた本人に呪いが跳ね返るだけではおさまらないこともあるの、今回がそう。なまじ素人が呪術をかじった程度で呪い代行なんて名乗るから。呪鬼会にもそういう相談はたくさん来るんですが。」
「そんな…。だったらどうすれば…。私、このままだと死ぬんですか?」
「あなただけの問題じゃないんです。もっと多くの方が不幸に見舞われる。放っておくと大変なことに…。乗りかかった船だから、そんなことは絶対させたくないんだけれど…。」

魔天楼さんは、しばらく考えていた。私は不安にかられながらも待つ。一時間、二時間…。そして、一言。
「真子さん自身が決着をつけないといけないようだわ…。」
「私が?」
「あなただけを助けるなら、あなたが死んだことにすれば簡単に済むんだけど、他にも多くの方が呪われているから、それではダメなの。あなたにとっても乗りかかった船なんだから、真子さん、覚悟はある?」
「どういうことですか?」
「それはね…。」

その後、魔天楼さんは私に詳しい説明をしてくれたようだ。ようだというのは、この後の記憶が私にはまったくないから。 朝、携帯が鳴り、自室のベッドで目が覚めた。やはり昨日までの記憶がない。 しかも全身の力が抜けたようにダルい。寝ぼけまなこで携帯を握る。
「もしもし…。」
「真子さんね。」
「あ、魔天楼さん…私、記憶が…。」
「長いこと眠っていたからね。よかった。目が覚めたのね。いま疲労がピークかもしれないけど、もう大丈夫。安心して。」

としか言わなかった。 何がなんだかわからなかったが、電話は切れた。 私は何気なくテレビをつけた。ニュースをやっている。
「…死亡したのは食品メーカーに勤務する吉村純一さん。吉村さんは自宅近くの路上で倒れているところを近くの住人が発見し…捜査当局は事件・事故の両面から捜査を…。」

ええ?あの吉村さんだ。呪い元の…。亡くなっている。魔天楼さんが言った、もう大丈夫とはこのことだったのか…。 とにかくシャワーを浴びよう。私はベッドからゆっくりと起き上がった。 ふとテーブルを見ると一枚のメモが置いてある。
「魔天楼です。あなたが眠っている間にちょっとお力を借りました。実はあなたも相当のパワーをお持ちのようです。眠ることで雑念のないチカラを呼び起こすことができました。あなたと私のチカラを合わせて、呪いの因果を断ち切り、ようやく呪詛返しができたのです。それで呪いの元の心臓を一撃できたかと。これでもう安心。まだ疲れが取れていないと思います。ゆっくり休んでください。」

そうか…。呪詛返しだったのか。疲れた…。でも、ホッとした。 私はシャワーを浴びるのをやめ、ベッドに戻り目を閉じた。そして再び深い眠りについた。

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