現世の常世、呪いの世界

ママ友への呪い

呪い代行ママ友への呪い

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呪いって、どこまで信じますか? 僕は正直ずっと懐疑的でしたよ。普通に生活してたらそんなもの滅多に使わないし、よっぽど酷いことを他人にしてない限り、ターゲットにされることもないでしょう?

でもね、呪いって意外と身近なもんなんだなぁって思うことがありましたよ。 今は“呪い代行”なんてものがあるんですね。そんなものがあるなんて知りませんでしたよ…しかもそんなものを、僕の妻が使うなんて。

あれは今から数年前。息子が生まれたのを機に、某市内のマンションを買いました。決して安い買い物ではありませんでしたが、通勤にも生活にも便利なところで、環境の良さに惹かれて購入したんです。 妻のカナコは妊娠してすぐに仕事を辞めたので専業主婦。正直ね、不安でしたよ。ローンの返済とか家計は、僕が一馬力で頑張れば済む話ですが、初めての育児で近所に身内もいない…カナコはとても真面目な女だから、一人で悩んでしまって育児ノイローゼとかにならないかなって…今すごく多いでしょう?兼業主婦、専業主婦関係なく、育児をする人は孤独になりやすくて育児ノイローゼになるって。悲しい事件が多いじゃないですか。虐待死や追い詰められた母親の自殺とか…。

でも、その不安はすぐに解消されました。 新しいマンションだったため、僕達と同世代の家族がたくさん引っ越して来たんですよ。ほとんどが小さい子供がいてね、敷地内の公園で顔を合わせるようになって。 「息子にお友達が出来た」とカナコは喜んでいましたが、カナコ自身にも主婦の知り合いが出来たんです。息子のお友達…ケイくんのママのトモミさんという人です。いわゆる、ママ友ってやつですね。息子同士がまだ2歳でしたので、お友達と仲良く遊ぶってことをどこまで意識してたか分かりませんが、カナコとトモミさんは公園で息子同士を遊ばせながら、よくおしゃべりをしていました。

トモミさんは明るくて話しやすい人でした。 育児の悩みや愚痴…きっと僕の愚痴も言ってたかもしれませんね、とにかく最初のうちは色々話して仲良くしてたんですが、次第にカナコはトモミさんに対してストレスを感じるようになりました。トモミさんはカナコに対して、何かと上から目線で要らぬアドバイスをしたり、自分の意見を押し付けることが多かったのです。 「え?顆粒だしなんて使って料理してるの?駄目よ、そんなの!添加物くらい気にしなきゃ」 「出産は帝王切開だったの?いいわね、楽できて!私は自然分娩だったから大変だったわよ」 「一時保育なんて使ったら、子供が可哀想よ。自分の時間が欲しいなんて甘えちゃ駄目」 等々…

僕がカナコから聞いただけでも、かなりイライラする発言ばかりでしたよ。 何かと言って、自分の方がちゃんとやってる…自分の方が大変で苦労している…自分の方が育児の知識がある… 自分が、自分が、自分が……そればかりです。よっぽど自分を良く見せたいのか分かりませんが、こういう人間が近くにいると、会話するだけでもストレスになりませんか? なんて言いますか、見下してるんだろうなって…だんだんと感じるようになります。

トモミさんは大人しいカナコを、無意識のうちに見下せる対象として見ていたのでしょう。 彼女のマウンティングはカナコの精神を蝕んでいきました。そして、それがさらに苛烈になる出来事が起きたのです。

二人目を欲しがっていたカナコが、二人目を諦めなければならなくなりました。 原因は僕です。男性不妊でした。さらに会社の経営状態も悪くなり、わずかに減給しました。 カナコに一切落ち度は無いのに、僕の体と経済的な事情で二人目を諦める…四人家族を夢見ていた僕達には、とても辛いことでした。 両方の両親が「一人だっていいじゃない。いっぱいお金かけて育ててあげな!」と励ましてくれたのが、唯一の救いでした。 「そうよね、私たちにはジュンがいるんだもの。たった一人の我が子を、いっぱい可愛がって立派に育てていかないと。やりたいことは何でもやらせてあげて、行きたい学校にも通わせてあげて…留学もしたいと言ったらさせてあげたいわ。ひとりっ子だからこそ出来ることってあると思うもの」 辛い気持ちを宥めるように、カナコはいつも自分に言い聞かせていました。 そして僕も「そうだね、その通りだね…」と頷いて、なんとか自分の気持ちに整理をつけようとしていました。 時間をかけて、このショックを消化していこう…そう思っていました。

しかし、トモミさんはこの事でもマウンティングしてきました。 カナコとトモミさんは、いつものように公園で子供たちを遊ばせながら、育児の話をしていました。 二人目をどうするかという話をした時、カナコは咄嗟の嘘がつけず、正直に不妊で諦めたことを話してしまったのです。 そしたら彼女は… 「まあ、そうなの。ジュンくん可哀想ねー、ひとりっ子なのね」 と言ったのです。 カナコにとって、それはとても残酷な言葉でした。 それをカナコから聞かされた時、僕がトモミさんの家にすぐに乗り込んで行って、これまでの言動への謝罪を要求することも考えましたよ。もちろん、彼女の御主人も同席の上でね。 カナコは「ご近所の目もあるし、変に噂されたら嫌だからそれはやめて欲しい」と懇願しました。 それならもうトモミさんとは話すなと僕は言ったんですが、息子のジュンとトモミさんのところのケイくんが仲良しで、子供同士の関係がしっかり出来上がっている今、親の都合で疎遠にできない…とカナコは泣いていました。

それから数週間後、トモミさんは二人目を妊娠しました。 舞い上がった彼女は、カナコと会うたびにお腹の中の子供について語り、カナコやジュンに「可哀想ね」「ひとりっ子はわがままになる」と言いました。 こんなことを言われてカナコは反論しなかったのか?しましたよ、当然。 してもね、通じないんですよ。心の底から悪意が無いのか、それを上手く隠しているのか…「私何か悪いこと言った?カナコさんったら気にしすぎ」と呆れるのです。 ついにカナコも限界を迎えました。

「私…もう我慢できない……」 夜中に悔し涙を流しながら、カナコは呟きました。 そして、トモミさんと縁を切ると私に宣言したのです。 トモミさんのマウンティングや自慢話に精神を蝕まれていたカナコは、ただ縁を切るだけでは気が済みませんでした。 妻は、インターネットから“呪い代行”に依頼をしたのです… それは“呪鬼会”というところで、様々な呪いを請け負ってくれるというものでした。 安くはない費用を払い、カナコはたった一つの願いを“呪鬼会”に託しました。 『トモミさんを不幸にしてほしい……』 申し込みをしている時の妻の顔は、今まで見たことが無いほど、怨みに歪んでいました。 あの優しく真面目なカナコが、これほどまでにトモミさんに対して怨みを内に秘めていたと思うと、僕は恐ろしくなりました…この怨みの力が、どれほど呪い代行とやらで発揮できるのかと…。

しかし、数週間過ぎても数か月過ぎても、呪いの効果らしきものは表れませんでした。 かなり漠然とした内容でもありましたから、なかなか結果が出ないのも仕方ないのかなとも考えました。 そもそも僕もカナコも、呪いなんてものに関してはド素人ですからね。分かっているのは、ダイエットみたいに自分の頑張りが目に見えて成果として表れたり、数字として結果が出たりしないと言うことだけ。 呪いの効果を今か今かと期待するのとは逆に、トモミさんのお腹は日に日に大きくなり、経過も順調で健康的なマタニティーライフを謳歌していました。 口には出さなかったものの、カナコはがっかりしたと思います。 不幸になれ…不幸になれ…と切に願った相手が、その真逆の幸せの絶頂にいて、同じマンションに住んでいるせいで嫌でも目に入ってくるのですから。

寒さが厳しくなってきた頃、トモミさんは二人目を出産しました。元気な女の子で、名前はカスミと付けられました。 送り付けられた赤ちゃんの写真を睨みながら、カナコは呟いていました。 「なぁんだ…彼女、幸せそうじゃない。呪い代行の効果って大したものじゃないのね」 鼻で笑うような声色でした。それはトモミさんを笑ったのか…それとも彼女を呪おうとした自分を笑ったのか…。

「他人を呪うということは、とても難しいことなんだ」と僕も感じました。 ところが、それから一年ほど経った頃です。 思わぬ“不幸”が僕達の耳に飛び込んで来ました。 トモミさんが産んだ二人目の赤ちゃん…カスミちゃんに、障害が見つかったのです。 あまり知らない人もいるかもしれませんが、出生前検査である程度の障害の有無は判明します。でもこれは絶対ではありませんし、検査にはリスクもあります。 カスミちゃんが背負った障害は、出生前検査では分からないものでした。文字通り、産まなきゃ分からないものです。 しかも1歳程度でそれが判明するということは、軽いものでは無かったのでしょう。

さらに“不幸”続きます。 トモミさんのところのケイくんが、不慮の事故に遭い、体に重い障害を負ってしまったのです。 あんなに元気に駆け回り、ジュンと遊んでいたケイくんの変わり果てた姿は、とても痛ましいものでした。 トモミさんのところの二人の子供は、幼くして障害を負い、辛い人生を歩むことを背負わされたのです。 この衝撃的な出来事を知ったカナコは、僕に言いました。 「呪い代行、ちゃんと効果があったのね…」 僕には最初分かりませんでした。 これは確かに“不幸”です。でもこれらは“子供たちにとっての不幸”であり、カナコが願った“トモミさんの不幸”とは異なる…。

その時、部屋の隅で遊ぶジュンを見て…気付きました。 そうか…母親にとっての最大の不幸とは、“子供が不幸になること”なんだと。 世界で一番可愛い我が子が苦難の人生を歩まなければならない… 人生の選択肢が、幼くして狭められる… 自分が変わってあげたい、でもそれは不可能なことだ… 僕も父親ですが、これほど辛いことはありませんよ。愛する我が子に苦労を背負って欲しくないと願うのは当たり前のことなんです。 子供を持つ人は誰だってそう思うはずです。 障害を持つ人を見下しているわけじゃありません。でも現実的に考えれば、どんな障害であれ、障害と向き合いながら日本で生きていくということは、とても厳しいものです。 学校、スポーツ、就職、恋愛…健常者と比べると、選択肢は遥かに少ないのが現実です。 トモミさんと同じ母親であるカナコも、それを理解しているはずです。 理解しているからこそ…… カナコは、笑ったんです。

「やったね、トモミさんが不幸になったわ」 その笑顔に、僕は身体中が粟立ちました。 あまりにも下衆で、悪意に満ちた笑顔だったのです。 僕は聞きました。「ケイくんもカスミちゃんも、何の罪も無い子たちだ。後悔は無いのかい?」と。 カナコは、はっきりと返しました。 「後悔は無いわ。相手はトモミさんの子供だし…ちゃんとトモミさんが不幸になったから良いのよ」 怨みの力が強いほど、人間は残酷になれる…僕は妻が明るさを取り戻したことに安堵しながらも、その行為の罪深さに恐怖しました。

たかが“呪い代行”と舐めていた過去の自分が恥ずかしくなりました… それから月日が流れ、ジュンは小学生になりました。 トモミさんのところのケイくんは、ジュンと同じ小学校には入学できず、障害児でも通える遠くの学校に行くことになりました。 カスミちゃんは障害はあるけれど、五体満足ですので、よく公園で走り回っているのを見かけます。 言葉の発達はかなり遅く、奇声をあげたりしていましたが、最近はたどたどしくマンションの住人に挨拶したりしていますよ。

そのカスミちゃんに、先日マンションの廊下で会いました。 カナコと買い物に行く途中、裸足で廊下を走っているカスミちゃんを見かけたのです。 カスミちゃんは僕たちの姿を見つけると、足早にこちらへとやって来ました。 僕は「こんにちは」と挨拶をしましたが、彼女は挨拶を返さず、カナコをじぃっと見上げて…たどたどしく言いました。 「おばちゃん、あたしを呪ったでしょ」 瞬間、心臓を鷲掴みにされたような苦しさと、体の内側から悪寒めいた気持ち悪さを感じました。 “この子は知っている…カナコが何をしたのか…” 何も言えずにいると、カスミちゃんはさらに続けました。

「次は、あたしがおばちゃんを呪うからね。不幸になれって呪うから、待っててね」 きいぃ!と動物のような奇声をあげながら、カスミちゃんは走り去って行きました。 恐る恐る、カナコを見ると…顔を真っ青にしてガタガタと震えていました。 あぁ…カナコは分かったんだな、と思いましたよ。 言ったでしょう? “親にとっての不幸とは、子供の不幸”だと…… いつの日か…近い将来か、遠い将来か分かりません。 でもいつか、僕とカナコの大事な息子、ジュンの身に何かが起きるかもしれません。 カスミちゃんが呪い代行に頼んで、カナコを呪うのか……いや、もう僕もカナコも呪いにかかってますね。 カスミちゃんのあの言葉が、僕たちにとってはとても恐ろしい呪いでしたよ…

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人を呪わば 呪い代行